この度は、白石茂義公認会計士事務所のホームページをご覧いただき、誠にありがとうございます。
今回は、「費用性資産の処理(その3)」について考えてみたいと思います。
税務上の繰延資産とは何か?
中小企業の経営者であるあなたは、「税務上の繰延資産」って聞いたことがあるでしょうか?

もしかしたら、「株式交付費や開発費などのことかな?」と思われたかもしれませんが、それらは「繰延資産」ではあるのですが、ここで言う税務上の繰延資産ではありません。
税務上の繰延資産とは、法人税法で定められている繰延資産の内、公共的施設の設置又は改良のために支出する費用、共同的施設の設置又は改良のために支出する費用、資産を賃借するための(返還されない)権利金等、ノウハウの頭金等、広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用などを指し、会計上は繰延資産ではなく長期前払費用として処理します。
これらが法人税法によって資産として計上することを要請されているのは、支出の効果が将来に渡って発現すると期待されているからですが、そのような支出の効果の大きさや持続する期間を物理的に把握することは難しいというのが実態でしょう。

そのため、税務会計によって作成された決算書を使ってしまうことで……(中小企業の決算書は経営判断に利用できない!その1)でも述べたように、会計と税務では目的がそれぞれ異なっていることを考慮すると、税務上は法人税法に従って処理をすることが望ましいとしても、会計上は望ましくないという場合は十分にあり得ます。
資産としての計上要件が厳格になったことで……
日本の会計基準は貸借対照表と損益計算書のどちらを重視しているのか?(中小企業経営者のための決算書入門!その10)でも少し触れましたが、会計ビッグバン以降は日本の会計基準も国際会計基準と歩調を合わせる必要性から、損益計算書よりも貸借対照表を重視する方向へとシフトしてきています。
このことは、本来は税務上の繰延資産を費用として処理するべきなのに、支出の効果が将来にわたって発現すると期待されるという理由から資産として扱うことへの会計での根拠が希薄になってきている(資産としての計上要件が厳格になったことで、これらの資産性が会計的に疑問視されるようになってきている)ことを意味します。

そうだとすると、一部の税務上の繰延資産について、税務においては資産として計上した上で法人税法に従って均等償却していくとしても、会計においては資産として計上せずに費用として処理したり、あるいは、資産として計上したとしても法人税法の定めよりも短い期間で償却したりすることにより、会計と税務の処理を乖離させることも、会計と税務のそれぞれの目的を達成するという観点からは一定の合理性があるはずです。
ちなみに、株式交付費や開発費などの繰延資産については、会計上で費用として処理した額を税務上も損金として処理することが認められているので、会計と税務で処理が乖離することはありません。又、会計上の扱いについても、繰延資産として計上できる項目を5つに限定(株式交付費・社債発行費等・創立費・開業費・開発費)しており、これらについても当面の取扱いという形で定められています。
次回は、「費用性資産の処理(その4)」について解説したいと思います。
白石茂義公認会計士事務所では、士業コンシェルジュというコンセプトのもと、特に、愛媛県松山市、今治市、新居浜市、西条市の経営者の皆様からのお問い合わせをお待ちしております。
必要の際には、ぜひ、お気軽にお問い合わせください。