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今回は、「貸倒処理(その3)」について考えてみたいと思います。
税務で貸倒引当金の計上が認められるには……
前回の貸倒引当金の計上に対する会計と税務の考え方の違い!(中小企業の決算書は経営判断に利用できない!その9)では、税務では貸倒引当金の計上を行う際に要件や算定方法が税法で厳格に定められており、暫定的な情報の利用は制限されていると述べました。
例えば、回収可能性が高いと予想される一括評価金銭債権については、会計と同じように貸倒実績率を乗じて貸倒見積高の算定を行うことができますが、当期が設立事業年度である場合を除き、当期に発生した貸倒損失の額が計算式に反映されておらず、貸倒実績率を求める算式は会計と異なっています。(詳しくは、国税庁ホームページのNo.5501一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の設定、及び、会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」の設例12を参照してください。)
又、回収可能性が低いと予想される個別評価金銭債権については、貸倒引当金の計上事由が下記のように定められており、たとえ貸倒れになる可能性があると判断できる事由があったとしても、これらの要件に該当しなければ計上することができません。
1. 形式基準による場合
・更生手続開始の申立て
・再生手続開始の申立て
・破産手続開始の申立て
・特別清算開始の申立て
・手形交換所等による取引停止処分
2. 金銭債権の一部につき取立て等の見込みがない場合
・債務超過が相当期間(概ね1年以上)継続し、その事業に好転の見通しがない場合
・災害・経済事情の急変等により多大な損害を生じたこと 他
3. 弁済猶予等があった場合
・更生計画認可の決定
・再生計画認可の決定
・特別清算による協定の認可の決定 他
まだ確定していないことを理由に貸倒処理を先延ばしするのは……
このように、税務では貸倒れの蓋然性が高くなるまで貸倒処理のタイミングを遅らせることで企業の裁量の余地を狭め、「税収の確保」や「課税の公平」という税制の目的を達成しています。
しかし、高い確率で回収不能になると判断できるような実態があるのに、まだ確定していないことを理由に貸倒処理を先延ばしするのは、貸倒処理を先送りすることができたとしても……(中小企業の決算書は経営判断に利用できない!その8)でも述べたように、企業の経営状態を正確に把握し、これを利害関係者に報告するという会計の立場からは問題です。
尚、ここでいう貸倒処理とは売上債権などの回収不能額を費用として計上することを指しますが、貸倒れが生じた後に行われる処理だけでなく、貸倒れが生じる前に見積額を引当計上する処理などもこれに含みます。
そして、経営者自身についても経営状態を正しく把握できないために経営判断を誤る危険が生じるのは減価償却の場合と変わりませんが、それだけでなく、貸倒処理がされていないことを理由に与信管理の判断を先送りしてしまい、それにより事態を悪化させることも十分に考えられます。
そのため、貸倒処理の方が減価償却よりも影響は大きいと個人的には思うのですが……
次回は、「貸倒処理(その4)」について解説したいと思います。
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