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今回は、埋没費用(サンクコスト)が生じている場合の意思決定のあり方についてお話ししたいと思います。
埋没費用(サンクコスト)とは何か?
中小企業の経営者であるあなたは、「埋没費用(サンクコスト)」という用語を聞いたことがあるでしょうか?
埋没費用(サンクコスト)とは、事業から撤退しても取り返すことができないコストのことですが、正しい意思決定ができなくなるサンクコスト効果(コンコルド効果と呼ばれることもある)という心理効果が働く原因でもあります。
例えば、建設費用10億円を支払い、新工場の建設を行っていましたが、環境悪化を恐れた地元住民が反対運動を起こし、新工場を完成・稼働させるためには、地元住民の理解を得るために5億円の追加工事が必要になったとします。
あなたなら環境対策のための追加工事を行って新工場を完成・稼働させるでしょうか、それとも、新工場の建設を断念するでしょうか?
おそらく、あなたは既に新工場の建設に着手し、10億円もの費用を負担しているのだから、このまま新工場の建設を断念するのはもったいないと思ったはずです。これがサンクコスト効果と呼ばれる心理効果です。
正しい判断をするためには……
正しい判断をするためには、埋没費用(サンクコスト)を除いて意思決定を行わなければなりません。
そこで、先ほどの例題の続きとして、新工場を稼働させることで得られる収入の現在価値合計は20億円であり、又、新工場を稼働させることで生じる支出の現在価値合計は7億円である場合について考えてみましょう。(それ以外の税金等の条件は無視します。)
この場合、追加工事を行うことで得られるのは13億円(20億円-7億円=13億円)となり、追加工事にかかる費用の5億円よりも多いので、新工場を完成・稼働させるのが正しいという結論になります。
もちろん、既に支払った建設費用10億円を考慮すれば、2億円の損失(20億円-7億円-10億円-5億円=-2億円)となりますが、新工場の建設を断念した場合には、既に支払っている10億円だけがそのまま損失となるため、両者を比較した場合には、新工場を完成・稼働させた方が8億円だけ有利ということになるわけです。
このように、既に支払った建設費用10億円を埋没費用(サンクコスト)として無視することで、正しい判断を行うことが可能になります。
それでは、環境対策のための追加工事を行うと、生産量が大幅に減少するため、新工場を稼働させることで得られる収入の現在価値合計は10億円に修正され、又、原材料の見直しなどにより、新工場を稼働させることで生じる支出の現在価値合計も8億円に修正される場合ならどうでしょうか?(それ以外の税金等の条件は無視します。)
この場合、追加工事を行うことで得られるのは2億円(10億円-8億円=2億円)となり、追加工事にかかる費用の5億円よりも少ないので、新工場の建設を断念するのが正しいという結論に変わります。
尚、この場合も既に支払った建設費用10億円を考慮すれば、13億円の損失(10億円-8億円-10億円-5億円=-13億円)となりますが、新工場の建設を断念した場合には、既に支払っている10億円だけがそのまま損失となるため、両者を比較した場合には、新工場の建設を断念した方が3億円だけ有利ということになります。
ちなみに、今回は例題なので疑う余地はありませんが、これが実際の場合であれば、サンクコスト効果により、計画を続行しようとするバイアス(=偏向のこと)が働くので、計画続行に都合がよくなるような予測数値になっていないのかを疑ってみる必要はあるでしょう。
次回は、設備投資の「安全性」について解説します。
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