需要予測が正しくても、なぜか設備投資を失敗してしまう?(その設備投資は正解なのか?その8)

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今回は、需要予測が正しくても、設備投資を失敗してしまう場合についてお話ししたいと思います。

需要予測は間違っていないのに……

前回のなぜ、経営者は過大な設備投資をしてしまうのか?(その設備投資は正解なのか?その7)では、「なぜ、需要予測を誤ってしまうのか?」という観点から、設備投資が過大になる理由を説明しましたが、実は、いくら需要予測が正しくても、設備投資が過大になってしまう場合があります。

例えば、投資計画を立案した当初は十分な需要量が見込まれ、予想される利回りも採択の基準を十分にクリアしていたのに、同じように設備投資をする企業が相次いだために、業界全体としての供給量が需要量を上回ってしまい、製品やサービスの値段が予定より大幅に下落したことで、当初の計画通りにはいかなかったような場合です。

供給過剰で値段が下がってしまう……

このようなタイプの設備投資の失敗は、多数の同規模の企業同士で競争をしていて、規模の経済*1による効果や経験曲線の効果*2が大きく働き、そして、投資決定をしてから設備が実際に稼働するまでに時間がかかるような場合に起こりやすいです。

*1生産量(製造業の場合)や取引量(小売業や卸売業の場合)などの規模が大きくなると、単位当たりの平均コストが低下するという現象のことです。

*2従業員が学習をすることで作業に対する習熟度が上がるという効果のことです。

なぜなら、規模の経済による効果や経験曲線の効果が大きいということは、なるべく大きな規模の投資を行った方がそれだけコスト面で有利になりますし、又、投資決定をしてから設備が実際に稼働するまでに時間がかかるということは、いち早く決断をしなければ他社に後れを取ってしまうので、時間をかけて他社の動向を探るようなことが難しいからです。

なぜ、回避することが難しいのか?

このようなタイプの設備投資の失敗を回避することが難しいのは、業界全体の供給量が過剰になることを恐れて自社の設備投資をためらうことは、ライバル企業を利することにしかならないからです。

ゲームの理論の表(囚人のジレンマ)

上の表を見ると、自社が設備投資をしない場合、他社も設備投資をしなければ、利益は共に1,000万円ですが、他社が設備投資をすれば、価格競争に負けて、自社の利益は100万円になり、他社の利益は2,000万円になります。

一方、自社が設備投資をする場合、他社が設備投資をしなければ、価格競争に勝って、自社の利益は2,000万円になり、他社の利益は100万円になりますが、他社も設備投資をすれば、際限なく価格競争が続くことで、利益は共に500万円になってしまいます。

そのため、全体で考えた場合には、両社が共に設備投資をしないことが望ましいのですが、お互いに、自分だけが設備投資をすれば利益を増やせる可能性があるので、相手を出し抜こうとして設備投資を行い、結局、両社は共に利益を減らすことになります。(これをゲーム理論では“囚人のジレンマ”と呼んでいます。)

競争の結果、統合や合併が行われる可能性があります!

このようなタイプの設備投資の失敗を回避するには、自社の製品やサービスを差別化する必要があります。

差別化ができるのであれば、他社と全く同じ土俵で競争することを回避できますから、自社の製品やサービスに対する需要量に応じて、最適な規模の設備投資ができるようになるはずです。

次回は、埋没費用(サンクコスト)が生じている場合の意思決定のあり方について解説します。

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