中小企業にABC(活動基準原価計算)は必要なのか?(管理会計のワナ!その12)

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今回は、「ABC(活動基準原価計算)」について解説してみたいと思います。

ABC(活動基準原価計算)が登場した背景……

中小企業の経営者であるあなたは、経営コンサルタントなどから「ABC(活動基準原価計算)」の導入を勧められたことはないでしょうか?

ABC(活動基準原価計算)の導入を勧められたことはありませんか?

もちろん、その人も悪気があったわけではないでしょうが、零細な中小企業にABC(活動基準原価計算)を導入しようというのは、あまりにも原価計算の基本を知らなさすぎると言わざるを得ません。

というのも、ABC(活動基準原価計算)が登場した背景やその特徴を知っていれば、零細な中小企業に対してそのような提案をするとは思えないからです。

ABC(活動基準原価計算)は製造間接費の発生と相関性の強い活動を基準に配賦計算を行うものですが、大企業を中心にFA化(ファクトリー・オートメーション化)が進んだこと等によって製造間接費の割合が増大し、もはや内部相互補助の問題*1が無視できなくなったことから誕生しました。

*1少量生産品が負担すべき製造間接費が大量生産品に配賦されてしまうことで、大量生産品の製品原価が割高になり、逆に少量生産品の製品原価が割安に計算されてしまうこと。

つまり、ABC(活動基準原価計算)は全部原価計算と直接原価計算の戦い!(管理会計のワナ!その7)で説明した“全部原価計算派”と“直接原価計算派”の争いの延長線上で、直接原価計算派からの製造間接費の配賦計算に対する批判に応えるという形で登場したのです。

伝統的な配賦計算とABC(活動基準原価計算)による配賦計算

けれども、これまでの伝統的な配賦計算の方法と比べて、ABC(活動基準原価計算)はいちいち相関性の強い活動を把握したり、測定したりしなければならず、IoT(モノのインターネット)等を活用するなどしても、導入する企業の負担はとても大きくなります。

そのため、零細な中小企業がABC(活動基準原価計算)を導入するには、かなり高い効果が見込めなければ難しいということになるのです。

ABC(活動基準原価計算)に対する大きな誤解!

零細な中小企業にABC(活動基準原価計算)の導入を進めようとする人の致命的な勘違いは、ABC(活動基準原価計算)であれば、正確な製造間接費の配賦計算ができると思い込んでいることです。

そもそも製造間接費というのは、その発生が一定単位の製品の生成に関して直接的に認識できない原価のこと*2ですから、どうしても仮定計算に拠らざるを得ません

*2原価計算基準8 製造原価要素の分類基準(三)製品との関連における分類の記述を参照のこと。

ですから、ABC(活動基準原価計算)というのは、伝統的な配賦計算と比べて、合理的な配賦計算ができる(つまり、多くの人が納得しやすい配賦計算ができる)ということであって、唯一絶対の答えを計算しているわけではないのです

ちなみに、どうしても正確な計算をしたいのであれば、製造間接費を製造直接費として認識・測定できるように作業内容を全面的に見直さなければなりませんが、仮にそんなことをすれば生産効率は大幅に悪化します。

しかも、零細な中小企業の場合、大企業と比べて製造間接費の割合がずっと低く、内部相互補助の問題もそれほど深刻ではないはずです。

結局はムダにお金を使ってしまうことに……

以上のことから、零細な中小企業の場合には、ABC(活動基準原価計算)を導入する必要性は低いという結論になります。

次回は、「ABC(活動基準原価計算)とABM(活動基準原価管理)」についてお話ししたいと思います。

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