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このブログ記事は、2018年9月10日に改題・更新しました。
今回は、「全部原価計算VS直接原価計算」について解説してみたいと思います。
全部原価計算の問題点
中小企業の経営者であるあなたは、全部原価計算派でしょうか?それとも、直接原価計算派でしょうか?
ちなみに、全部原価計算と直接原価計算の主な違いは、製造固定費を製品原価*1として処理するか、期間原価*2として処理するかにあります。
*1生産物の販売を通して個別的に収益と対応させるもの。
*2期間的に収益と対応させるもの。
ですから、生産量よりも販売量の方が少ない(期首棚卸資産よりも期末棚卸資産の方が多い)場合には、全部原価計算の営業利益の方が大きくなり、逆に、生産量よりも販売量の方が多い(期首棚卸資産よりも期末棚卸資産の方が少ない)場合には、直接原価計算の営業利益の方が大きくなります。
これは、全部原価計算には、同じ販売量であっても、生産量が増えれば営業利益が大きくなってしまうという問題があることを意味します。
そこで、歴史的には、このような欠点を克服する方法として、直接原価計算という方法が登場するに至りました。
けれども、このことをもって直接原価計算の方が全部原価計算よりも優れているということにはなりません。そもそも、両者は原価計算に対する考え方そのものが違うからです。
直接原価計算の問題点
全部原価計算派と直接原価計算派とに分かれるのは、全部原価計算派が資産の本質を“未来収益獲得能力”にあると考えているのに対し、直接原価計算派が資産の本質を“未来原価回避能力”にあると考えているからです。
例えば、その支出が将来の収益獲得に貢献できることを資産の本質と考えるのであれば、製造固定費であっても、将来販売される製品を製造するために支出されている点では製造変動費と何も違いはないため、製造変動費と同じく、製品原価として処理すべきことになります。
一方、その支出が将来回避できることを資産の本質と考えるのであれば、製造変動費は発生を回避することができますが、製造固定費は(少なくとも短期的には)発生を回避することができないので、製造変動費とは違って、期間原価として処理すべきことになります。
まあ、全部原価計算を支持するか、それとも、直接原価計算を支持するかは、絶対的な正解が無い以上、それぞれが自由に決めればよいのですが、制度会計上は直接原価計算が認められず、全部原価計算が強制されるという点については注意をしておく要があります。
尚、制度会計上、直接原価計算が認められないのは、固定費と変動費の分解が恣意的に行われる危険があり、又、その分解の正確性について企業外部から検証するのが非常に困難だからです。
固定費と変動費を上手く分解できないのだとしたら……(管理会計のワナ!その3)でも説明しましたが、固定費と変動費の分解を正確に行うのは簡単ではありません。
そのため、正常操業圏の範囲を操作するだけで、簡単に固定費と変動費の割合を変えることが可能であり、それによって営業利益の額を操作することも可能なのです。
このように、全部原価計算も直接原価計算も、それぞれが大きな問題を抱えていることから、いつまで経っても論争に決着がつきません……
次回は、「固定費の管理方法」についてお話ししたいと思います。
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